近年「副業」を採用して事業を推進していく企業が増えてきました。
雇い主として「副業」は低コストでリスクが少なく優秀な人材を採用ができるというメリットもありますが、採用をする前にリスクに関しても知っておく必要があります。
本記事では、副業採用におけるリスクについて解説していきます。
まずは労働法に関してみていきましょう。
労働法とは雇う側と雇われる側の関係性を規律する法の総称です。
雇われる側は雇う側に比べると立場が弱くなってしまうケースが多いです。その時に雇われる側を守る法として定められているのが労働法になります。
上記で述べた通り労働法は様々な法の総称となっており労働法に属する法律の代表的なものとしてはには「労働基準法」や「労働契約法」などが挙げられます。
労働基準法は、日本国憲法第27条第2項「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」との定めを受け、1947年4月に制定された、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。
労働契約法は、従業員を雇う際に締結する労働契約について基本的なルールを定めたもので、平成20年3月に施行された比較的新しい法律になります。この法律は就業形態の多様化が進み労働契約に関する個別の紛争が増えたため制定されました。
では副業として人材を抱える場合に労働法を考慮する必要はあるのでしょうか?これは副業人材との間で締結される契約種別によって変わってきます。副業を雇う場合には「業務委託契約」または「雇用契約」を締結しますが、「業務委託契約」の場合は労働法は適用されず、「雇用契約」の場合は適用されるのです。
「雇用契約」を締結した際に使用者は労働基準法で定められている「労働時間」を正しく理解しておく必要があります。具体的には法定労働時間や36協定、労働時間の通算ルールについての理解が必要です。ただし、稼働時間に制限のある副業従業員と契約を結ぶ場合は、使用者が指揮命令権を持てない「業務委託契約」を締結するのが一般的になっております。ここでは「業務委託契約」を締結した場合を仮定してリスクを深掘りしていきます。
各契約に関する詳細はこちらの記事でご確認ください。
副業を採用する際に業務委託契約を締結した場合は、両者間の関係性は対等であるとされ、企業側からの指揮命令権は与えられません。具体的には業務時間や業務を行う場所を指定及び管理することは原則できません。業務委託契約のつもりで契約を締結しても、その内容次第では、雇用契約と評価されてしまうケースもあるため注意が必要です。
労働法違反と認定された場合には、企業側には下記のような両契約の差分を補償することが求められます。
・社会保険・労働保険へ遡って加入することや、保険料の支払い
・差額賃金の支払い(最低賃金を下回る場合)
・未払い残業代の支払い
・有給休暇の付与
賃金や保険料に関しては遡って支払う必要があり、キャッシュフローを逼迫する可能性もあります。
労働法違反にならないためには定期的に稼働環境を確認することが重要でしょう。下記項目を確認し当てはまるポイントがある場合は稼働環境を見直すことを推奨します。
・作業指示を行なっていないか
・作業時間や作業場所の指示を細かく行なっていないか
・契約にない作業依頼を行なっていないか
社会保険とは、病気やケガなどのリスクに備えて、私たちの生活を保障する公的保険で、広義の意味だと「公的医療保険」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つを指しています。一方で「公的医療保険」「年金保険」「介護保険」の3つを狭義の意味での社会保険と呼び、「雇用保険」「労災保険」を労働保険と呼ぶこともあります。
本業をお持ちではないフリーランスの方(業務委託契約を締結)はご自身で国民健康保険や国民年金に加入することが必須です。では本業をお持ちの方が業務委託契約を締結し副業している場合は副業先でも社会保険の支払いを行う必要があるのでしょうか?基本的には本業先以外での支払いが発生することはありません。
では、副業先で雇用契約を締結した場合はどうなるのでしょうか?
結論からお伝えすると、「雇用保険」を除く「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「労災保険」は一定の条件を満たすと加入が必須になります。(労災保険に関しては原則として加入必須です)
社会保険の適用事業所である会社で副業をしている人については、一定の条件を満たした場合、社会保険への加入義務が発生します。
一定の条件とは概要下記の通りです。
介護保険に関しては40歳以上で加入義務が発生しますので、上記を満たしている場合でも40歳未満であれば加入の義務は発生しません。
では、本業と副業とで社会保険に2重加入する必要があるのでしょうか?結論はあります。
上記要件を満たした際には、労働者と使用者で対応すべき内容があります。
労働者(従業員本人)
2カ所以上の会社で社会保険の加入要件を満たした日から10日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を選択する事業所の所在地を管轄する事務センター(および健康保険組合)に提出します。
複数の会社で社会保険の加入要件を満たした際にはまず、「選択事業所」と「非選択事業所」を選択する必要があります。「選択事業所」はメインの事業所、「非選択事業所」はサブの事業所のことを指しております。つまりメインの事業所(=選択事業所)の所在地を管轄する事務センターに「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」の提出が必要になるのです。
使用者(雇用する企業)
新しく従業員を採用し、かつ社会保険の加入要件を満たしている場合は採用日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を日本年金機構(および健康保険組合)へ提出します。
副業であっても、労働者の労災保険への加入は原則必須です。労災保険へ労働者を加入させる義務は使用者側にあるため、使用者側が手続きを行う必要があります。保険料もそれぞれの事業主が全額を支払います。
しかし、労災保険に関しては従業員を雇用するたびに加入手続きをする保険ではなく、会社が事業所自体として加入しており、働いている従業員がすべて保険の対象となります。つまり事業所として1人目の従業員を雇用した際に適切に加入できていれば、副業を採用した時の追加の対応は不要です。
では社会保険の加入を怠った場合の罰則はどのようになるのでしょうか?
社会保険に未加入で強制加入となった際には過去2年間に遡って未納分の社会保険料を徴収される可能性があります。またこれは現金での支払いになるので事業への大きな影響が想定されます。
さらに特に悪質と判断されたケースにおいては、健康保険法第208条により、6ヶ月以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金が課される恐れがあります。これは、複数回の加入指導に従わなかった際や、虚偽の申告をしていた際に対象となる可能性があります。
このような罰則を受けないためにも社会保険への加入は忘れず正確に行なっておくのが良いでしょう。
企業側が副業を認めるためにあたってクリアにしたいポイントの一つに「情報漏洩」が挙げられます。ここでは「(副業人材の)意図した情報漏洩」と「意図しない情報漏洩」に分けて事象と対策を説明していきます。
意図して発生する情報漏洩には下記のようなケースが想定されます。
・同業他社で副業を行い双方でナレッジの共有を行う
・本業先と副業先で顧客のデータを共有し営業活動に利用する
これらのケースを引き起こさないためには、「就業規則や誓約書で機密保持義務に違反した際の罰則を定めること」や「副業人材を採用する際の情報アクセスの範囲を限定すること」が効果的でしょう。 後者に関しては過剰に制限してしまうと業務に支障が出る可能性もあるので、コミュニケーションを行いながら開示する範囲を定めるのが良いでしょう。
意図せず発生する情報漏洩には下記のようなケースが想定されます。
・秘密情報と認識せず第三者に開示してしまう
・PCやスマホを紛失してしまう
・PCのウイルス感染
これらのケースを引き起こさないためには、「リスク管理意識の醸成」が効果的でしょう。研修やセミナーを実施する、またはリスク管理に関するドキュメントの作成などを実施し情報漏洩に関する危機意識を向上を図りましょう。
従業員を採用する時には、誰もが長い間活躍してくれることを期待し採用活動を行なっていると思います。しかし、残念ながら大学卒においては10.7%が、高校卒においては11.2%が半年以内で退職しているというデータがあるのです。入社して半年のタイミングは研修が終わる頃のタイミングでもあり、会社とのミスマッチが主な退職理由と考えられるでしょう。
労働生産人口が減っている日本においては、このような人材の流出は重要な経営資源の損失につながります。
副業採用においても契約期間を長めに定めてしまうと同じリスクに直面してしまいます。
ワークホップではこのリスクを軽減させるために「おためし採用」を推奨しています。これは正社員や長期契約で採用する前に短い期間(1ヶ月等)での契約を締結し、会社と従業員双方で入社前とのギャップの有無を実際に働いて確認することを指しています。このステップを踏むことによって、両社のミスマッチが減っていき、ミスマッチがあった場合でも入社してすぐに手を打つことが可能です。
いかがだったでしょうか?
副業の採用は使用者側に大きなメリットをもたらす一方で、リスクについてもしっかり考えていく必要があります。
リスクを正しく理解した上で、副業人材を活用し貴社の事業を推進していきましょう。